本当に、得たかったもの。
周囲で起きていたトラブルがひとまず、結末を迎えた。
そのトラブルに遭遇していた、対象者の二人ともが、本人達が望んでいた結末を得ることができた。
対象者の二人は、長い間、抱えていた問題から解放され、安堵している様子だった。
・・けれど。
それに最も尽力した私の親友は、浮かない顔をしていた。
「ねぇ、Hさん。何で私の気持ちは、こんなにも晴れないんだろう。。」
親友と、その件について話をした。
彼女は、目の前で苦しんでいる二人を、自らの意志で助けたい、二人の力になりたい、と思い。
そのために最善を尽くして。
結果、それが実現した。
彼女が望んだのは、目の前二人をその苦しみから解放すること。
当初彼女が目標として掲げていたものは達成されている。
理屈からすれば、確かに彼女は満足しているはずだった。
「なのに。なんで、心から喜べない自分が、いるんだろう。。」
電話機の向こうから、沈んだ声が聞こえた。
ここのところ、ろくに睡眠もとれていなかったようで。
声もぐったりしていて、眠気がかなりきている様子だった。
「あまり頭も回らない。疲れていて、本当はもう眠りたいんだ。でも・・それが気になって。このままの状態で寝たくない。。」
「ねぇ、なんでだろう。このモヤモヤした気持ちの原因、Hさんなら、わかるかな。。」
ぼんやり、朦朧とした声で、そう尋ねてくる。
彼女にあまり、長く時間とらせたくない。
できるだけ早く、眠らせたい、と思った。
私「これは、私個人の見解だけれども。」
そう前置きして、以下のような内容を伝えた。
自分がやりたいと思って、自分で決めたこと。
だからそれに対しての他人からの評価や感謝なんて要らないし、求めない。
自分の意志で決めて、やったことに対して、何らかの見返りを誰かに求めるのは、
きっと私やあなたにとっては、タブーだ。
でも。
”そうしたい”と思って、行動を起こしたのは、
やっぱり、その相手のために役に立ちたい、という気持ちが根底にあるからだ。
だから。
ほんの少しでもいい。
見返りを求めたい、という気持ちがあるのは
至極当然のことだと思うし、
何より、それを求めてもいいくらいの働きを、あなたは充分していたよ。
うまく言えないけれど。
きっとこういうことなんじゃないかと思う。
そう伝えると、彼女は「あぁ。。うん。それだ。」と呟いた。
「私は、ほんの一言でいい。二人から、心からの「ありがとう」が、聞きたかったんだ。。その一言で、私は全部報われる気がしたんだ。けれど。それが得られなかった。だから、それに落胆してるんだ。」
そう言って、彼女は続けた。
「モヤモヤしてた原因がわかって、すっきりした。これで寝られる。ありがとう。Hさん。」
彼女の口から出たのは、私に向けられた感謝の言葉だったけれど。
すごく悲しい気分になった。
私「ううん。・・私は、ずっと見てたよ。優しいあなたのことだ。あの状況でのやり取りは、心が折れてしまいそうなくらい、ツラいことだったと思う。でも、それを途中で投げ出さずに、二人をトラブルから救ったあなたは、本当に立派だと思う。最後まで、一人で本当によく頑張ったね。」
そう伝えると、彼女は「・・うん。ありがとう。Hさんが私をわかってくれてるから。それだけで私は救われてる。」そう言って、いくつか私への感謝の言葉を伝えた後、就寝のあいさつをして電話を切った。
何とも、言えない気分だった。
・・彼女がトラブルから救った二人は、実はここにたどり着くまでに、様々な形で、彼女に対する裏切り行為を行っていた。
自分自身のことしか見えていないゆえの、言動で。
それが彼女への裏切りにあたる行為だということを、当人たちは、露にも思わずにやっていた。
彼女はトラブルから二人を必死で守っていたのに、
守っていた二人からも、彼女は深く傷つけられている状態だった。
一体自分は、何を守ろうとしたのだろう。
そういう喪失感も、本当は、彼女の心の中にあったんだろう、と思ったけれど。
それを今の彼女に伝えるのは、あまりにも酷で。
伝えきれずに、私は電話を終えた。